大判例

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札幌高等裁判所 昭和29年(う)764号 判決

原審第一、二回公判調書および原判文によると、原審第一回公判期日において、被告人ならびに弁護人は、本件公訴事実第三(原判示第二の傷害事実)については酒に酔つていたので判らない旨の陳述をなし、同第二回公判期日において弁護人は、本件の有罪であることは争わないが右は被告人が酒に酔つたうえでの犯行であるので、できる限り寛大なる裁判ありたい旨の最終意見を陳述したこと、ならびに原判決がこれに対し判断を示さなかつたことは所論のとおりである。而して右被告人および弁護人の陳述の趣旨は、被告人が同犯行当時心神喪失又は耗弱状態にあつたものである旨の主張をなしたものと認められるから、原判決がこれに対する判断を示さなかつたのはその判断を遺脱したものというべきであるが、右遺脱は刑事訴訟法第三百七十八条第四号の「判決に理由を附せず」とある場合に該当しないものと解するを相当とする。けだし右同号にいわゆる「判決に理由を附せず」とある「理由」とは有罪判決においては、同法第三百三十五条第一項所定の「罪となるべき事実、証拠の標目および法令の適用」を指し、同条第二号の要求する判断を遺脱した場合を包含していないからである。従つて右判断遺脱を目して理由不備を主張する論旨は理由がない。なお、右主張に対する判断遺脱は同法第三百七十九条にいわゆる「訴訟手続に法令の違反」がある場合に該当するものと解するのが相当であるが、記録によるも被告人が原判示第二の犯行当時心神喪失又は耗弱状態にあつたことを確認すべき措信するに足る証拠がなく、却つて原判決挙示の証人藤村靖信の原審公判廷における供述ならびに同人の検察官副検事に対する第一回供述調書によると、被告人は右犯行当時多少酩酊していたことは認められるけれども、心神喪失又は耗弱状態にあつたものでないことを認めることができる。原判決挙示および原審で取調べた各証拠中右認定に抵触する部分はいずれも措信するに足らない。されば、原判決が叙上主張に対する判断を遺脱し「訴訟手続に違反」したとしても、その違反は判決に影響をおよぼさなかつたことに帰するから、同違反を主張する論旨も理由がない。

(裁判長裁判官 水島龜松 裁判官 臼居直道 裁判官 中村義正)

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